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Topic 68. 【子どもの近視】今すぐできる進行予防行動2つ


【子どもの近視】今すぐできる進行予防行動2つ
裸眼視力0.3未満の小学生は30年前の3倍以上

6月10日は「こどもの目の日」だという。日本眼科啓発会議(日本眼科医会、日本眼科学会などで構成)によって、今年制定された。子どもの目の発達について、国民に関心を持ってもらうことが目的の1つだが、特に問題視されているのが、子どもの近視の急増や若年化だ。
原因や近視予防について、日本近視学会理事長で東京医科歯科大学眼科学教室教授の大野京子医師に聞いた。
近くのものははっきり見えるのに、遠くのものがぼやけて見える近視。

学校で実施されている視力検査では、視力1.0未満なら眼科の受診を勧められているが、文部科学省『令和3年度学校保健統計調査』によると、裸眼視力1.0未満の子どもは小学生が約37%、中学生は約61%で過去最多だ。低年齢で進行する子どもも増え、裸眼視力0.3未満の小学生は約30年前に比べて3倍以上になっている。

増えているのは「スマホの影響」
子どもの近視が増加している原因について、大野医師は「スマホの影響が大きい」という。その理由についてこう話す。

「目から近い距離での作業『近業(きんぎょう)』が増えると、近視になる確率は高まります。スマホは目からの距離が近くなりやすく、さらに長時間にわたって使われやすい傾向があります。パソコンやタブレットと比べて、スマホが最も近視の進行に影響するという報告もあり、画面が小さい電子機器ほど、視力に悪影響をおよぼすことがわかっています」

なぜ近業が増えると、近視が進行しやすくなるのか。理解するには、近視のメカニズムを知る必要がある。

近視は眼球の前後の長さである「眼軸長(がんじくちょう)」が通常より長くなった状態だ。眼軸長が長いほど、近視が進行していることになる。

眼球はカメラのような構造になっていて、眼球の表面にある角膜から入った光は奥にある水晶体を通り、さらに眼底にある網膜でピントを合わせ、映像を認識する。眼軸長が長いと、網膜よりも手前で像が結ばれてしまい、遠くのものが見えにくくなる。

近業が近視を引き起こすメカニズムは、はっきりと解明されているわけではない。だが、有力な説が「調節ラグ」と呼ばれるものだという。大野医師が解説する。
有力な説「調節ラグ」とは?
「通常、近くのものを見るときには、水晶体は厚みを増して網膜にピントが合うように調節します。しかし、何らかの理由によって水晶体の調節力が機能しないとピントが網膜の後方にずれ、その状態が続くと網膜の中の細胞がそれに順応しようと働き、眼軸長が伸びると考えられています」

特に眼軸長が伸びやすいのが、身長が急速に伸びる小学校高学年から中学生にかけてで、この時期に近視の目になりやすい。

さらに、これまでは身長の伸びが止まれば眼軸長の伸びも止まり、近視の進行もストップすると考えられてきたが、近年はスマホなどの普及で、大人になっても近視が進行し続けることがわかってきた。だからこそ、成長期にいかに眼軸長の伸びを抑制するかが重要になる。

近視が増えている原因として、もう1つ指摘されているのが、屋外活動の低下だ。複合的な要因があると考えられているが、屋外の強い光を浴びない影響が大きいといわれている。

屋外は日陰でも1000ルクス(明るさの単位)あるが、屋内では窓際でも800ルクス程度。多くの照明を使用するテレビ局の撮影スタジオでも1000ルクスには届かないという。

「屋外の明るい場所にいると、網膜の中でドーパミンという神経伝達物質がつくられます。ドーパミンは、古くから近視を抑制する作用があるといわれているため、屋外活動によって近視が抑制されると考えられるのです」(大野医師)



では、どうすれば子どもの近視の進行を防ぐことができるのか。

その対策としては、「近業を避けること」「屋外活動を増やすこと」が有効だ。とはいえ、文部科学省の「GIGAスクール構想」で、子どもたちが1人1台の端末を持つことが推進されている今、近業を避けるのは不可能だ。

「大事なのは、スマホやタブレットとの付き合い方」と大野医師。ポイントは次の3つだ。

ただし、乳幼児期は別だ。大野医師は「小学校に入るまではスマホを見せるのは避けてほしい」と話す。

「目の機能は8歳くらいまでに完成するといわれています。目の発達期に強い刺激を受けることは、視力にも影響を及ぼすリスクがあります。動画を見せる場合は、できればテレビ、せめてタブレットなど、できるだけ大きな画面で見せることをおすすめします」

なお、近視は一般的に小学校中学年くらいで発症しやすいが、それよりも低年齢で発症する場合は「網膜色素変性症」(網膜に異常がある進行性の病気)など、背景に病気がある場合もある。
近視の効果が明らかな対策は少ない
屋外活動については、台湾の「1000ルクス以上の光を1日2時間以上浴びている子どもは近視になりにくい」という研究結果に基づき、1日2時間以上の屋外活動が世界的に推奨されている。中国では子どもの近視予防のために、教室に1000ルクスの照明を設置するなどの取り組みも実施されているそうだ。

「太陽光は紫外線による悪影響もあるので、日陰で過ごすのが理想です。現実的に毎日2時間外遊びをするのは難しいと思うので、通学や休み時間、体育の時間なども含めて、1日トータルで考えるといいでしょう」と大野医師はアドバイスする。

ネット上では、視力回復効果がある目の体操なども紹介されているが、大野医師は「近視予防の効果は認められていない」と断言する。

「ブルーライトをカットするメガネやサプリメントなど、さまざまな商品がありますが、近視予防の効果は明らかではありません。近視予防の情報は多く出回っていますが、効果や安全性がはっきりしていないものも少なくありません。日本近視学会のホームページなど、学会が公表している情報を参考にしてください」

学校で実施されている視力検査では、視力1.0未満なら眼科の受診を勧められている。眼科では近視の強さは裸眼視力ではなく、屈折度数(近視、遠視、乱視などの進行度を数値化した単位)で判断する。

用いるのはジオプトリー(D)という単位で、正視は「0」、近視はマイナス、遠視はプラスとなる。メガネの処方箋や、コンタクトレンズの箱にも記されている数値だ。

「子どもは調節力が強いため、眼科では『調節麻痺薬』を点眼して正確な屈折度数を測定します。学校で視力1.0未満と判定されても、正確に測定すると近視ではないこともありますが、近視と診断されれば、程度は軽くてもメガネやコンタクトレンズで調整することをお勧めします。ボケた映像を見続ければ、近視を進行させるリスクがあることを、保護者の方には知っていただきたいです」(大野医師)
弱い近視でも矯正したほうがいい
「黒板の文字はややぼやけるが、目を細めるなどすれば何とか見える」「後方の席だと黒板の文字が見えないが、前方の席だと見える」といった程度の近視でも、メガネやコンタクトレンズを使用するほうが、近視予防につながるそうだ。

「身長が伸びている間は近視が進行していくので、メガネやコンタクトレンズを使用している場合、度数を定期的にチェックすることも進行予防のために大事です。春休み、夏休み、冬休みなど長期休みのタイミングで受診することをお勧めします」(大野医師)
近視は遺伝的な要因もあるが、増加していることを考えると、環境的な要因が大きいことがわかる。子どものときの生活習慣が視力を決めることを知っておきたい。

(取材・文/中寺暁子)