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Topic 7. 気をつけよう!子どもの近視


はじめに

子どもたちの近視が増えており、世界的な問題となっています。近視はたとえ軽度でも、緑りょく内ない障しょうや網もう膜まく剥はく離りなどの、近視以外の目の病気に将来かかるリスクを上昇させることが、疫学調査で明らかとなりました。このため、人生が 100 年といわれる時代を生きる子どもたちの見え方を、生涯にわたって良好に保つためには、子ども時代に近視を発症させない、進行させない取り組みが、非常に重要であると考えられるようになっています。

世界中で、この重要な課題に取り組むための研究が盛んに行われるようになっています。その成果から得られた、子どもの近視に関する、根拠のある正しい知識を、これから少しずつ身につけていきましょう。

東京医科歯科大学 眼科学教授
大野京子

近視になると、どうなるの?

近視になるとどうして見えにくくなるのか。はじめに、その理由を解説します。
目の見える仕組みとは
目はカメラのような構造で、色や形を光の情報として取り入れます。カメラのレンズに相当するのが、角かく膜まくと水すい晶しょう体たいで、カメラのフィルムに相当するのが、網もう膜まくです。
角かく膜まくは眼球の外側にある透明な膜で、光を眼球内に取り入れるとともに、光を屈折させるはたらきがあります。
水すい晶しょう体たいは、遠くのものや近くのものを見るための、ピント合わせをしています。
網もう膜まくは眼球の内壁です。この部分で像のピントが合い、微妙な色具合や明暗を識別しています。
つまり、目は角かく膜まくから映像を取り入れ、水すい晶しょう体たいでピントを調整して、網もう膜まくでその映像を認識しているということです。

近視とは、眼球の形が前後方向に長くなって、目の中に入った光線のピントが合う位置が、網膜より前になっている状態です。

そのため「近視」になると、近くのものははっきり見えますが、遠くのものがぼやけて見えます。


近視になるメカニズムは?

どうして近視になるの?
近視には、遺伝と環境の両方が関与します。遺伝要因とは、先祖や両親から受け継いだ遺伝子によって生じるというものです。

環境要因としては、屋外活動の減少や、近いところを見る作業の増加などが挙げられます。

実際は、どちらの要因によって生じるかという厳密な判定は不可能で、人によって異なる割合で、両者がともに深く関係して近視になります。

どのような種類があるの?
小学校に入る前からの強い近視は、遺伝が環境よりも強く影響しています。目の病気を合併しやすい病的近視や、近視以外の病気が隠れていることがあります。

遺伝子は遠い祖先から受け継がれているものですので、両親に強い近視がなくとも、受け継いだ遺伝子の中に強い近視になるものが含まれていることがあります。

したがって、祖父母、曾祖父母に強度近視の人がいる場合がありますが、昔のことなので、よくわからないこともあります。

一方で、小学校に入学してから近視になる、いわゆる一般的な近視は、単純近視と呼ばれ、環境が大きく影響します。
残念なことに、近代化した日本社会では、注意しなければ、近視になる生活習慣を避けることが難しいために、多くの子どもが近視になります。
しかしながら『単純近視』でも遺伝の影響は示されており、例えば

(1)一卵性双生児では、ほとんど同じ度数になる。

(2)近視でない両親よりも、近視の両親から生まれた子どもは、近視になる確率が高い。

などが、共通しています。
また、親の近視の程度が、子どもの近視の程度に影響するため、親が近視で、程度が強いほど、近視にならない生活習慣に配慮する必要があります。


近視が進行するとなぜ悪いの?

近視が将来の目の病気に与える影響は?
近視は、メガネなどで矯正すれば視力が出るものとして、これまであまり問題視されてきませんでした。しかし疫学データの蓄積から、近視が将来の目の病気の罹患率に与える影響が大きいことがわかりました。

表- 1 に、近視度数ごとに、将来、目の病気に罹り患かんするオッズ比(罹かかりやすさ)を示します。例えば、軽度の近視であっても、近視がない場合と比較して、緑内障になるリスクは4倍も高いことがわかります。子ども達が生涯にわたり、良好な視力を維持するためには、小児期に近視の発症と進行を予防することが、いかに大切であるかがわかります。

近視が病的近視だったらどうなるの?
病的近視では、表- 1 で示した目の病気が重症化するだけでなく、様々な病的近視特有の病気(近きん視性しせい脈みゃく絡らく膜まく新しん生せい血けっ管かん、近きん視性しせい網もう脈みゃく絡らく膜まく萎い縮しゅく、近きん視性しせい牽けん引いん黄おう斑はん症しょうなど)を生じるため、将来、視覚障害に至るリスクはより高まります。このため単純近視とは区別され管理されます。小児期に近視が強度に至った症例に、病的近視が多くみとめられます。

一方で近視は、表- 2 に示すように、 一度発症すると 17 歳ごろまで進行します。また低年齢であるほど、年間進行量が大きい特徴があります。つまり低年齢で発症すれば、強度近視に至ることが予測できます。

近年爆発的に増加し、低年齢化している単純近視が、強度に至ることで病的近視となるかどうかは、現時点で明確ではありません。しかしそうならないために、低年齢のお子さんであるほど、次の4章でお示しする、近視予防のための生活習慣を心がける必要があります。

近視を防ぐための生活習慣は?

今の子ども世代は、親世代に比べ、明らかに近視が増加し、若年化しています。このような急激な変化は遺伝だけでは説明できず、環境が大きく関与する重大な証拠です。
外で過ごす時間を増やしましょう
近いところを見る作業以外に、世界共通で認識・ 信頼されている近視の原因には、「外遊び」の減少があります。日光にあたる外遊びが少ない子どもは近視になりやすいのです。

したがって近視の予防には日光にあたり、外で遊ばせることが最も近道かつ確実な方法とされています。

実際いくつかの国では、学校の昼休みや休憩中に外で遊ぶことを義務付け、記録をつけさせているところもあります。近視がある子もない子も、1 日2 時間は外にいることが有効です。

学校の昼休みや、授業の合間の休憩時間に、外に出ることで、1 時間程度は外にいる時間を増やすことができます。体育の授業が外で行われた場合は、 2時間程度は外にいる時間が確保できます。

また、一見暗そうにみえる建物の影や、木陰でも、屋外であれば、教室などの室内に比べて、近視予防に十分な照度(具体的には照度計で 1000 ~ 3000 ルクス以上)が確保できることが多いです。

このため、必ずしも直射日光のもとで過ごす必要があるわけではありません。むしろ日差しの強い直射日光があたる広場や校庭では、熱中症や紫外線などの悪い影響にも配慮する必要があります。強い光を浴びすぎると、将来の皮膚がんの増加などの悪影響もありますので、木陰などで過ごしましょう。

晴れた日の広場では、たとえ帽子、またはサングラスを使用したとしても、室内に留まることに比べれば、近視予防に十分な照度が得られることが示されています。

無理をせずに、外での活動を取り入れるようにしましょう。外遊びによる効果は複合的な効果といわれています。木陰で過ごす場合にもスマホなどを使わずに体を動かして過ごしましょう。

屋外活動による近視の予防効果は、年齢が低い子どもほど高いため、特に保育園や小学校低学年のお子さんであるほど意識して、安全に取り入れるようにしましょう。

近いところを見る作業では注意しましょう
近いところを見る作業は、たくさんありますが、この作業が増えることで近視になる確率が高まるのは事実です。ただ実際問題として、近視予防のために近いところを見る作業をしないというのは、現実的な対応とは言えません。

これまでの研究から、読書や書き物をするときは、少なくとも 30cm 以上離して作業すること、30 分に一度は遠くを見て連続させないことが、近視予防に効果があることが証明されています。読書や書き物をするときは、十分な明るさを保つ(照度計で 200 ルクス以上)ようにも気をつけましょう。

※ルクス:光に照らされたものの表面の明るさ(照度)を表す単位。照度計で測定する。

また従来からの読み書き以外に、近くを見る作業として、手元で使用するスマホやゲーム機、タブレット、ノート型パソコンや、デスクトップ型パソコンなどがあります。これらの機器が単体で、どの程度有害か、どのように使用すればよいかに関しては、特定されていません。

これらの機器を、子どもたちが長時間使用するようになったのが最近なので、科学的に立証するための研究結果が追い付いていないからです。

しかしながら、最新の研究では、スマホや携帯ゲーム機器などの有害な点が指摘されつつあります。今後研究が進むことで、これらの機器をどのように用いるべきかが具体的に示されると期待されます。


さいごに

本冊子によって、お子さんの近視の発症と進行を予防することが、いかに重要であるかをご理解いただけたのではないかと思います。

現在、いくつかの有望な予防治療法が検討され、一部の施設で臨床応用されようとしています。また、動物実験から様々な新規仮説が提案され、様々な新規治療法が各国で開発されています。しかし、いずれの治療法や仮説も、人間が使う上でのエビデンス (信頼性や安全性)を完全に確立するには至っておりません。その効果と安全性については、今後さらに長期的かつ大規模な臨床研究を行って確認していく必要があります。

現時点では、お子さんの近視を重症化させないために、日常生活では「5.近視を防ぐための生活習慣は?」で述べた生活習慣に配慮し、地域の眼科の先生との連携を密接にとりながら、定期検診による適切な矯正指導や管理を受けるよう心がけましょう。